大判例

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東京地方裁判所 昭和27年(カ)6号 判決

再審原告 荒木寿恵雄

再審被告 川口瀞

一、主  文

本件再審の訴を却下する。

訴訟費用は再審原告の負担とする。

二、事  実

再審原告(以下原告と略称する)訴訟代理人は「東京地方裁判所が同庁昭和二十四年(ワ)第一〇六〇号建物収去土地明渡請求事件について昭和二十六年十月三日言渡した判決の内原告に関する部分を取り消す。右事件における再審被告(以下被告と略称する)の請求を棄却する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、

その理由として、

前記判決はこれに対する控訴がなくて当時確定したものである。

さて、前記請求事件は被告から原告に対し東京都杉並区阿佐ヶ谷一丁目七百五十七番地の二にある木造平家家屋(家屋番号七百三十三番の四)一棟建坪十五坪(実際は木造瓦葺の家屋である)を収去してその敷地十五坪を明け渡し、且つ、昭和二十四年一月一日から右明渡の済むまで一箇月二十四円三十銭の割合による金員の支払を求めた事件であり、被告は弁護士里見馬城夫を訴訟代理人として訴訟行為を遂行したのであるか、里見弁護士は右事件については次の理由により被告の訴訟代理人となることを禁止されていたのである。

被告は予て訴外相沢喜兵衛からその所有の前記地番の宅地百六十八坪六合五勺(以下本件土地と呼ぶ)の内二十七坪(以下係争地と呼ぶ)を賃借し、これに対する借地権を有していたが、その借地権を含む本件土地に対する借地権は昭和二十年三月二十三日第六次強制疎開によつて消滅し、これと同時に本件土地の使用権は東京都に移り、杉並区役所が管理することとなり、同区役所は訴外松本金重を代表者とする阿佐ヶ谷商店連盟にバラツク敷地として本件土地を使用することを許した。

原告は昭和二十一年五月頃右連盟が係争地上に建築した建坪約四坪の建物を松本から買い受けこれに居住して文房具商を開業し、次で、同年十一月頃相沢からこれに隣接する係争地中の約十一坪の使用承諾を得た。

相沢は昭和二十二年八月五日本件土地を財産税として国に物納したが、昭和二十三年六月下旬原告に対し物納を金納に変更することに成功すれば右土地はこれを原告に譲渡する旨を約束したので、原告は右変更運動を推進し、同年七月三日その目的を達成すると共に財産税三万二千三百七十六円を相沢のために立替納付した。

しかるところ、本件土地の強制疎開前の借地権者である被告、訴外加藤文雄、望月米国の三名は急に原告に対しその分譲を申し出るに至つたので、原告は相沢に相談したのであるが、相沢としては、本件土地は訴外宇田川信次郎、箕輪正吉、丸山俊郎、三輪武彦、岸附喜代子、横川鶴吉、須崎久平らが不法占有中であるから原被告及び加藤、望月の四名が協力して右不法占有者らに対しその明渡を求め、明渡を得た上で適宜分譲したらよいであろうということであつた。よつて右四名は昭和二十三年九月十二、三日頃里見弁護士を被告方に招聘しその対策を協議したが、これについて同弁護士は旧借地権者である被告及び加藤、望月の三名が借地権を主張して土地の明渡を求めればよい。この場合には原告はこの共同戦線に加入しつつしかも明渡訴訟では被告となつて敗訴しなければならない。そして終局の目的を達するには原告が敗訴しても原告に対しては強制執行をしないことにすればよいという趣旨の意見を述べたので四名はこの意見に従うことを決定した。

一方、前記四名間では各自に使用する土地の振割の協議を進めたが、被告は自説を固執して妥協をせず、里見弁護士を代理人として昭和二十三年十一月三日到達の書面で原告に対し建物収去及び土地明渡の請求をするに至つた。しかし、原告は隣人として被告と争うことを好まなかつたので、里見弁護士に対し円満解決の斡旋を求めその快諾を得たのであつた。

さて、相沢の財産税のためにする本件土地の物納取消及び金納運動は先に指摘したように一旦成功したのであつたが、その現実の占有者らの反対運動のため昭和二十三年十一月二十四日再び物納に還元された。ここにおいて原告ら四名は同月下旬更に里見弁護士の助言を求めた上次のような協定をした。すなわち、四名の共同戦線によつて現実の占有者らに明渡を訴求すること、その方法として被告及び加藤、望月の三名が原告となり、原告はその訴訟における被告の一員となつて敗訴する、但し、右三名は原告に対しては明渡の強制執行をしないこと及び訴訟費用は四名の共同負担とすることを協定し、同年十二月九日誓約書を作成し、その手続一切を里見弁護士に委任すると共に、原告はこの協定に従い、同月十六、七日頃仮処分の供託金及び手数料分担金として三万五千円を里見弁護士に支払つた。(なお、原告は望月の分担金の一部一万五千円も立て替えて同弁護士に支払つた。)

これを要するに、原告は本件土地の法律関係については里見弁護士に少くとも三回以上協議し、その費用をも分担しているのであるが、この協議は弁護士と依頼者との信頼関係に立つものであるから里見弁護士は弁護士法第二十五条第二号により本件土地に関する事件について原告を相手方とする訴訟にあつてはその訴訟代理人となることを禁止されているものといわなければならないのである。すなわち、本件確定判決を生じた事件において被告の訴訟代理人となつた里見弁護士はその権限を有しなかつたことに帰着するから民事訴訟法第四百二十条第一項第三号に基き本件再審の申立をした次第である。

と述べ、

被告の主張に対し、

(一)  弁護士法第二十五条第二号は強行規定である。これを訓示規定に過ぎないとするのは判例を無視するものである。けだし、判例は同条に対応する同法第十四条に関し「弁護士が当事者の一方より委任を受けたる事件に付き、其の相手方の為に職務を行うことを得ざる旨を規定したる弁護士法第十四条は当事者保護の目的に出でたること勿論なりと雖、弁護士をして誠実に職務を執行せしむると共に其の品位を涜す如きことなからしめんが為に外ならざることは同条立法の精神に徴し疑を容れざる所なるを以て其の委任の終了後なると当事者の許諾あると或は又是等の者に不測の損害を加うると否とを問わず絶対に之を禁止したるものと解せざるべからず」(昭和六年(オ)第三五六四号、同七年六月十八日判決。昭和七年(オ)第二一三〇号、同八年四月十二日判決。昭和九年(オ)第一〇一〇号。同年十二月二十二日判決。参照)としているのであつて、この見解は弁護士法第二十五条第二号についてもそのまま維持さるべきものだからである。

(二)  弁護士法第二十五条第二号が前叙のようにこの規定に違反して訴訟委任を受けることを絶対に禁止するものである以上、これに違反する訴訟委任については追認の余地はないものといわなければならないから、たとえ、被告においてその主張のような追認をしてもその追認は無効である。

(三)  被告主張の準備書面には、里見弁護士に対し「原告は被告とあえて事を構え度くないから適当な解決策を講じられ度い旨を述べたところ同弁護士はこれを承諾した」とか「係争地を含む宅地一筆の訴訟につき費用を分担した」とかいう主張はあるが、「原告が係争地に関する法律関係につき詳細な協議をし、且つ、訴訟費用を支払つた」というような弁護士法第二十五条第二号の「協議の程度及び方法が信頼関係に基くと認めらるべき」であつたというような主張はない。従つて、原告は本件確定判決前に右弁護士法違反の事実を知りながら上訴によつてその主張をすることを怠つたものというべきではない。

(四)  本件再審の訴の提起が原告において再審事由のあることを知つた日から三十日経過後であることは訴を不適法ならしめるものではない。けだし、原告が本件で再審事由としているのは先に指摘したように「訴訟代理権ノ欠缺」であるが、この事由による再審の訴については「再審ノ訴ハ当事者カ判決確定後再審ノ事由ヲ知リタル日ヨリ三十日内ニ之ヲ提起スルコトヲ要ス」との民事訴訟法第四百二十四条第一項は同法第四百二十五条によつてその適用を排除されているからである。本件再審事由を同法第四百二十条第一項第三号の「代理人カ訴訟行為ヲ為スニ必要ナル授権ノ欠缺」に該当するとするのは被告の独断に過ぎない。しかも、仮に本件再審事由がこの場合に該当するとしても、民事訴訟法第四百二十五条の法意はかような事由についても同法第四百二十四条第一項の適用を排除する趣旨であるから、この点に関する被告の主張はいわれのないものであると述べた。

被告訴訟代理人は本件再審の訴を却下するとの判決を求め、

答弁として、

本件確定判決を生ずるに至つた事件について里見弁護士が被告の訴訟代理人として訴訟行為をしたことは認めるが、原告主張のその他の事実は否認する。仮に里見弁護士に弁護士法第二十五条第二号該当の行為があつたとしても、

(一)  右弁護士法の規定は弁護士の使命の重要なるに鑑み、その職務の遂行上に一定の控制を設けんがための一つの訓示規定に過ぎないのであつて、これに違反する代理権授与行為を無効とするものではないから、里見弁護士に前叙のような行為のあつたこと民事訴訟法第四百二十条第一項第三号の再審事由となるものではない。

(二)  仮に里見弁護士が本件確定判決を生ずるに至つた事件で被告の代理人としてした訴訟行為が右弁護士法の規定によつて無効であつたとすればここに改めてこれを追認する。

無権代理人の訴訟行為であつても、その後本人又は適法に代理権を附与された訴訟代理人の追認により既往に遡つて効力を生ずることは多数の判例の存するところであるが、判例は弁護士として職務を行うことのできない者のした訴訟行為についてまでもその追認を認めている(大阪高等裁判所、昭和二十六年(ネ)第二〇六号、同二十七年五月三十日判決。台湾高等法院、昭和十一年上(民)第五三号、同年六月六日判決。参照)ほどであるから、前記事件における里見弁護士のした訴訟行為は追認によりすべてその行為の時に遡つて効力を生ずるに至つたものというべきである。従つて、里見弁護士に対する訴訟代理権の授権に欠缺があつたとするに帰着する原告の再審の申立はここにその理由を失つたものといわなければならない。

(三)  再審の訴は確定判決を生ずるに至つた事件で知りながら主張しなかつた事実をその事由として提起することは許されない(民事訴訟法第四二十条第一項後段但書)のであるが、里見弁護士に前叙のような行為のあつたことは、原告は本件確定判決を生ずるに至つた事件当時これを知つていたのであつて、そのことは、同事件における原告代理人浅野昇作成の昭和二十五年十一月一日附第一準備書面第八項に里見弁護士は原被告双方から本件土地の法律関係について詳細協議を受け、且つ、双方から手数料を受領した旨の主張があることによつて明白であるから、本件再審の訴はこの点からしても不適法である。

(四)  仮に原告が本件確定判決を生ずるに至つた事件当時はなお里見弁護士に前叙のような行為のあつたことを知らなかつたとしても、原告は少くともその判決確定までにはこれを知つたものとなさるべきである。ところで、再審の訴は判決確定後再審の事由を知つた日から三十日内に提起すべきものであるところ、本件確定判決が確定したのは昭和二十六年十月二十三日であり、本件再審の訴が提起されたのはその後三十日以上を経過した昭和二十七年九月十三日であるから、右訴は不適法として却下さるべきである。

民事訴訟法第四百二十五条は「前条ノ規定ハ代理権ノ欠缺及第四百二十条第一項第十号ニ掲クル事項ヲ理由トスル再審ノ訴ニハ之ヲ適用セス」と規定するから、本件においては再審の訴の出訴期間を定めた同法第四百二十四条の適用はなく、出訴期間についての制限はないものと解される虞なしとしないのであるが、原告主張の再審事由は同法第四百二十条第一項第三号所定のうち後段の「代理人カ訴訟行為ヲ為スニ必要ナル授権ノ欠缺アリタルトキ」に該当し、同法第四百二十五条の「代理権ノ欠缺」中には含まれないから、同法第四百二十五条によつて本件を出訴期間に制限のないものと結論すべきではないのである。

と述べた。

三、理  由

按ずるに、原告が本件再審の事由として主張する事実は本件確定判決を生ずるに至つた訴の提起される以前に原告が自ら体験した事実であるから、原告は再審の訴を待つまでもなく、右事由を前記訴訟において主張することはもちろん上訴によつてもこれを主張し得たものといわなければならない。ところで、民事訴訟法第四百二十条第一項但書にいわゆる再審の事由を知るとは同条第一項第一号乃至第十号所定の事実を知るのいいであつて、その事実が再審の事由となるという事実に対する法律的価値判断までもその中に含める法意ではないから、本件再審の訴は右但書の制限に違反するものとする外はない。

よつて本件再審の訴を不適法として却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田中盈)

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